(元)登校拒否系

反学校、反教育、反資本主義、反歴史修正主義、その他もろもろ反対

フロイト講演会「精神分析の起源と発展」 第一講義(2)



彼の共感的な観察により、応急手当を可能にする手段がすぐに発見されました。患者は、「心ここにあらず」の、精神的な変調の状態の中で、たいていはいくつかの単語を独り言でブツブツ言っているということが明らかになりました。こうした単語は彼女が忙しく思考していたこととの連想から生まれているようでした。博士は、こうした単語の意味がわからなかったので、彼女を一種の催眠状態に置き、単語が持っているかもしれないあらゆる連想をも呼び起こすため、彼女の耳元で単語を何度も何度も繰り返しました。患者は彼の暗示に従い、「心ここにあらず」の時に思考を支配していた精神的な創造物を彼のために再現しました。そうした創造物は個々の話し言葉の中に姿を現しました。これらの創造物は、妄想であり、深い悲しみと、しばしば詩的な美しさをもった白昼夢とでも呼ぶべきもので、共通して父親の病の床に寄り添う少女の状況から始まっていました。そのような妄想をいくつか語ったあとは必ず、彼女は、いわば、解放されて正常な精神状態に回復しました。この健康状態は数時間続き、そして次の日には新しい「心ここにあらず」の状態になってしまうのでした。そしてその状態は同じようにして新しくつくられた妄想を語ることによって取り除かれました。「心ここにあらず」の状態となって現われる精神的な変調は、こうした強い感情を伴う妄想-イメージから発生する興奮状態の結果であるという印象を抱かないわけにはいきませんでした。患者自身は、病気のこの時期には奇妙なことに英語だけを理解し話していたのですが、この新しい類の治療を"talking care"(お話し治療)と名付け、あるいは冗談めかしてそれを"chimney sweeping"(煙突掃除)と呼びました。

博士は間もなく、そのような魂の掃除によって、絶えず繰り返し発生する心の「雲」を一時的に取り除く以上のことができるという事実に突き当たりました。催眠状態の患者が、症状が最初に現われた際の状況とそれとの連想的な結びつきを思い出した時に、そうした結びつきが引き起こす感情に対して開いた排気孔が与えられれば、病気の症状は姿を消すであろうという事実です。


夏の間、すごく暑くなることがあった。そして患者はのどの渇きにたいへん苦しんでいた。というのも、はっきりした理由は何もないのに、彼女は突然飲むことができなくなったからだ。水の入ったグラスを手に持っても、グラスが唇に触れるや否や彼女はそれを押し返してしまうのだ。まるで水恐怖症になっているみたいだ。明らかにこの数秒間の間彼女は「心ここにあらず」の状態にあった。彼女はこの苦しいのどの渇きを癒すために、メロンなどの果物しか食べなかった。これが6週間ほど続いたある日、彼女は催眠状態でイギリス人の家庭教師について話していた。彼女はこの家庭教師を嫌っていた。そしてついに彼女は、いかにも嫌そうな表情を浮かべながら、かつて家庭教師の部屋に入り、家庭教師の子犬が、グラスから水を飲んだのを見たということを語った。彼女はその犬を忌み嫌っていた。社会的慣習を顧慮して、患者は沈黙を保ってきた。今や、抑制されていた怒りをエネルギッシュに表現した後で、彼女は飲み物を求め、大量の水を難なく飲み、唇にグラスをつけた状態で催眠から覚めた。症状はそのあと直ちに永久に消滅した。

この経験についてしばらく考えさせてください。それまでは、そのような方法によってヒステリーの症状を治療したり、その原因の理解にここまで近づいた者は一人もありませんでした。もしさらに他の、ことによると症状の多数が、このようにして発現するのであり、同じ方法で取り除くことができるだろうという期待が確かめられれば、これは可能性に富む発見であるでしょう。ブロイアーはこのことを確認するために苦労を惜しまず、その他のより深刻な症状の病原をより秩序だったかたちで調査しました。実際に、その通りでした。ほとんど全ての症状はまさにこのようにして、感情に彩られた経験のいわば残りかすとして、沈殿物として、発生するのです。そのため私たちは後にこうした経験を「精神的トラウマ」と呼びました。症状の性質はその原因となった光景との関係を通して明らかになりました。症状は、専門用語を使って言うと、症状が体現していた記憶の痕跡をもつ光景によって「測定される」(determiniert)*1のであり、だからもはや神経症の恣意的なあるいは不可思議な機能としては説明されえないのです。

予想されるかもしれないこととは違う点について言っておかねばならないことは一つだけです。症状の誘引となるのは必ずしも一つの経験ではなく、通常はいくつかの、ことによると多くの似たような、反復的なトラウマが合わさってこの効果をもたらしていました。一連の全ての病原となる記憶を時系列に、そしてもちろん逆順に、つまり最後の記憶を最初に最初の記憶を最後に再現しなければなりませんでした。後にくる記憶をまず片付けておかないと、最初のしばしば最も本質的なトラウマに直接到達するのは全く不可能なことでした。


*1:訳注。不適切な訳語かもしれません。