(元)登校拒否系

反学校、反教育、反資本主義、反歴史修正主義、その他もろもろ反対

ネグリ来日拒否への抗議に抗議する




ネグリ氏:初来日中止 過去の政治運動に絡む有罪判決で

http://mainichi.jp/enta/art/news/20080321k0000m040043000c.html?inb=rs

 資本主義というのは寛大なシステムで、反資本主義思想までも商品にしてしまいます。ただし反資本主義者であれば売れるというわけではもちろんなくて、「勝ち組」「負け組」に別れるのはどの世界でも一緒です。そのうち前者に属している一人がイタリアのアントニオ・ネグリです。彼の過激な共産主義は世界中で大ブレークしています。日本でも著作は翻訳されていて、多くの大学サヨクに癒しを与えました。一冊はなんと天下のNHK出版から出ています。

 その彼を、日本の国際文化会館というブルジョア団体が招聘しようとしていました。関係者のブログには「ネグリさんを歓待しよう」というような呼びかけがあったりしてキモイなと思ってましたが、予定は直前になって取り消されました。

 ネグリは「最高峰の哲学者」であると同時に、犯罪者でもあるからです。彼は過激派指導者として有罪判決を受けています。

 さて、言うまでもなく査証の発行拒否は批判されなければなりません。けれどもサヨクによる抗議コメントをいくつか読んで、強烈な違和感を禁じ得ませんでした。

 僕が読んだ限りですが、彼が政治犯であることを強調する批判が多いように思います。彼は、ある過激派が起こしたテロ事件との関係で有罪となっていますが、直接的に犯行に加わったわけでも、指示を与えたわけでもありません。ただサヨク知識人であっただけです。このことをもって、サヨクは彼が政治犯であったと見なしています。そしてブルジョア法規では、犯罪者の入国拒否において政治犯は<例外>となっているのです。

 けれども、少なくともネグリの思想を額面通り受け止めるのであれば、このようなことを根拠とする抗議はおかしいと思います。『<帝国>』だったか『マルチチュード』だったかのどちらかで、彼は「グローバルな市民権」を提案しています。国籍や出身地に関わらず誰もがどこにでも行きたいところに行けるようにするべきだというのです。決して一定の枠内に収まる者への「寛容」を求めているのではなく、移動の自由は無条件に普遍化されるべきだという主張であると僕は理解しました。

 そのような立場に立つのであれば、批判されるべきなのは入管体制そのものでなければなりません。外国人の入国や滞在が「条件付き」のものとされることを背景として、「研修生問題」という無法状態暴力団による横暴がまかり通っています。これについては『堕天使のパスポート [DVD]』という映画がお薦めです。『アメリ [DVD]』の人が主人公を演じています。


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 このような差別そのものが根源的に批判されなければなりません。とすれば当然、犯罪歴はそもそも問題となってはならないはずです。問題は、ネグリが「政治犯」としての<例外>的特権を不当にも享受できなかったということではありません。そうではなくて、国境などというもの自体が否定されなければならないのです。国境と入管体制の下で「普遍的」な人権とその<例外>が併存していることが批判されなければならない。ところがネグリは、今回の件について次のように書いています。


私たちは1970年代以降のトニの政治的過去と法的地位に関する記録をそれに加えて提出するよう求められたのです。これは遠い昔に遡る膨大な量のイタリア語書類であり、もちろん私たちの手元にもありません。そして、この5年間にトニが訪れた22カ国のどこも、そんな書類を求めたことはありませんでした。


http://www.i-house.or.jp/jp/ProgramActivities/ushiba/index.htm

これでは、本来なら政治犯として優遇されてしかるべきなのに、他の犯罪者と同列に扱われてしまったとでも言わんばかりです。


 スパルタカスの反乱を思い出してください。奴隷反乱が鎮圧された後、数百の捕虜が集められます。ローマ軍の兵士が尋ねます。スパルタカス(=指導者)はどこだ、と。



お前たちのご主人様で、イタリア司令官であられるマーカス・リシニアス・クローサス様よりのメッセージだ。慈悲深き閣下から、お前たちの命は助けるようにとのご命令だ。お前たちは奴隷であったし、これからもそうあり続ける。だが、恐ろしい絞首刑は免除された。お前たちが、スパルタカスという奴隷の死体か生ける姿を特定するということが唯一の条件だ。*1


(……ざわざわ……ざわ…)


アイム スパルタカス

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アイム テラ豚丼

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http://d.hatena.ne.jp/toled/20071211/1197417341

 つまり、そこにいる全員が革命家だったのです。*2

 [なぜそう名乗ったのか?] 言わずもがなのことを、『ザ・コンテンダー』においてジョーン・アレンが親切にも説明してくれました。

 現職副大統領の死をきっかけに始まるドロドロとした抗争を描いた映画です。事件を受けて、大統領は女性を新しい副大統領候補に指名します。ただし、新しく副大統領を任命するためには、上院の承認が必要です。その審査において、政敵たちが女性候補への誹謗中傷を行い、妨害しようとします。しだいに彼女への攻撃はエスカレートしていき、学生時代の「スキャンダル」の疑惑がもちあがります。乱交パーティーに参加していたというのです。男性ならば勲章になるようなことが攻撃材料となるという、絵に描いたようなダブルスタンダードです。

 さて、上院での聴聞会でこの「疑惑」について詰め寄られた副大統領候補は、回答を拒絶します。それは疑惑の火に油を注ぐことになり、彼女はピンチに陥ります。で、そのあと色々とありまして。ええ、まあ映画ですので。結局はハッピーエンドです。彼女は勝利して副大統領に就任します。そのあとです。ホワイトハウスの庭で二人っきりなると、大統領は彼女に尋ねます。ぶっちゃけ、本当のところはどうだったのよと。ここで彼女は、乱交パーティに参加したことを初めて否定します。「ではなぜ聴聞会で否定しなかったのか」と迫る大統領に、彼女が答えていわく、


そうすることは、彼ら(政敵)があんな質問をしたことを正当化してしまうから。

 彼女は、疑惑を否定することが自分の利益になるとわかっていながら、上院での答弁を拒絶ました。なぜならば、そんなことを「疑惑」にすることがそもそも間違っているからです。乱交パーティーが事実であるかどうかではなく、そんなことを攻撃材料にすること自体を彼女は拒否したのです(もちろん、ここには一つの重大なゴマカシがあって、観客が最後に「真相」を知ってしまうということです。ま、それは置いておきましょう)。



ザ・コンテンダー [DVD]

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http://d.hatena.ne.jp/toled/20071211

 また、ネグリがテロ事件と関わりがないということの強調のされ方にも違和感がありました。というのも彼は、著作の中で明らかに暴力や武装闘争を肯定しているからです。テロを起こした個別の集団に対して指導的立場にはなかったことだけを主張するのはミスリーディングだと思います。『ロープ』において自らの超人思想を弟子が実践するのを見せつけられて震撼する教師程度には関わりがあったと見なすべきではないでしょうか?


ロープ [DVD]

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 これは、サヨク哲学の消費のされ方一般に典型的な現象です。ネグリは暴力主義的な共産主義者なのに、彼を招いた関係者の宣伝などを見ると、ただの愉快な良いおじさんのように思えてしまいます。マルクス主義者を「現代最高峰の思想家」などと中立なレッテルで呼ぶことにも、まるで無臭ニンニクのような滑稽さを感じます。

 このように言うと、次のような反論があるかもしれません。いや、自分はネグリの主張を深いレベルで理解している。けれどもそれをそのまま説明して、一般の理解が得られるだろうか、と。待ってました! ↓を読んでください。

http://d.hatena.ne.jp/toled/20041204/1102129335

http://d.hatena.ne.jp/toled/20041219/1103419623

http://d.hatena.ne.jp/toled/20041223/1103777944



<帝国>

<帝国>


*1:I bring a message from your master, Marcus Licinius Crassus, commander of ltaly. By command of His Most Merciful Excellency, your lives are to be spared. Slaves you were and slaves you remain. But the terrible penalty of crucifixion has been set aside, on the single condition that you identify the body or the living person of the slave called Spartacus.

*2:「私がテラ豚丼だ」という叫びは、『イン&アウト [DVD]』のラストシーンでも見られます。