(元)登校拒否系

反学校、反教育、反資本主義、反歴史修正主義、その他もろもろ反対

学歴詐称事件と「反学校の倫理」



またしても政治家の学歴詐称事件が起こりました。


★学歴誤記:高橋札幌市議が12年間


高橋忠明・札幌市議(70)=西区、自民=が初当選した83年から4選を果たした95年の市議選までの間、後援会員向けに発行した小冊子に、実際は高校中退の最終学歴を「卒業」と記載していたことが分かった。99年の選挙では「誤りに気付いた」として最終学歴を削除したというが、毎日新聞などに提出した書類は「卒業」のままだった。


冊子には「昭和28年3月、札幌光星学園卒業」と記されていた。03年の市議選で毎日新聞などに提出した書類は「中退」と改められていた。高橋市議は「後援会に任せていてチェックが行き届かなかった」と釈明している。


毎日新聞 【清水隆明】

http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20050324k0000m040144000c.html

この事件に関しての、反学校党中央委員会の公式見解を発表します。それはズバリ、「学歴詐称上等! 弁解無用!」というものです。高橋忠明せんせいは辞職する必要は全くありませんし、罰則を受けるいわれもありません。

反学校主義の入門ステージにある方は、疑問に思われるかもしれません。「う〜ん。もし故意に学歴を偽っていたとすれば、この人はそれだけ学歴にこだわっていたことになる。それは学歴主義なんじゃないの? 低学歴でも正々堂々と誇りをもって生きるべきだと思うけどなあ」。ブーッ! 間違いです。

このような感想を抱くようでは、正しい反学校主義者とは言えません。それでは困りますよね♪ 今回の事件を通して、「反学校の倫理」の基礎トレーニングを行い、今後類似の事件が起こったときに正しい感想が抱けるようになりましょう。

そもそも、まだ入門ステージにある方でも、「学歴差別」という言葉はご存知ですよね? そして「学歴差別は悪い」と思っているはずです。これは皆さん大丈夫ですよね? え? 「なんでか」って? 「サベツは悪い」からです。「学歴差別=サベツ=悪い」、ね、簡単ですよね。わかりますよね。

え? 「別にサベツが悪いとは思わない」ですって? 。。。え〜、コホンッ。そのような方には、「再教育キャンプ」での合宿学習プログラムを用意しております。そこでわかるまでじっくり付き合います。反学校革命成就後、可及的速やかに「再教育キャンプ」への無料送迎バスを派遣しますので、それまでお待ちください(・∀・)!

ではその他の皆さんはいいですね。確認しておきます。「学歴差別は悪い」。念のために、3回連呼しておきましょう。「学歴差別は悪い、学歴差別は悪い、学歴差別は悪い」。はい、いいですね。なんだか、すがすがしい気分が広がってきましたね。反学校パワーが発生してきてますよ♪

「なんでこんな基礎的なことに時間をかけるんだろう」とお思いかもしれませんね。それは、わかっているようでいて、実はわかっていない方が多いからです。そして、この基礎的なポイントをマスターしていないと、必ず応用でつまづきます。それで、今回のような学歴詐称事件に対して誤ったリアクションを示す、といったような症状が出てきてしまうのです。今回は、わかっているようでわかっていない基礎に立ち戻って、バッチリ対策しておきましょう。

「わかっていない」のは、「学歴差別」という言葉を知っていても、それをサベツとして認識できていないからです。サベツってどんなものがありますか? 障害者差別、人種差別、女性差別、部落差別、同性愛者差別、在日差別、などなど、ですね。

ここでは、部落差別を例にとって考えてみましょう。もし今回のような学歴詐称事件が、部落差別の分野で起きたとしたら、どのような「事件」になるでしょうか? 想像してみてください。部落差別の領域において、学歴差別学歴詐称事件の関係に対応するのは、どのような「事件」でしょう?


★出身地誤記:市議が12年間


A市市議のX氏(70)が初当選した83年から4選を果たした95年の市議選までの間、後援会員向けに発行した小冊子に、実際は甲地区である出身地を「乙地区」と記載していたことが分かった。99年の選挙では「誤りに気付いた」として出身地を削除したというが、落日新聞などに提出した書類は「甲地区」のままだった。


冊子には「昭和10年3月、A市甲地区生まれ」と記されていた。03年の市議選で落日新聞などに提出した書類は「乙地区」と改められていた。X市議は「後援会に任せていてチェックが行き届かなかった」と釈明している。


落日新聞

どひゃ〜! ものすごいことになってますね。現在の日本では、こんな新聞記事は、絶対に考えられないはずです。怪しげな団体のミニコミ紙や、2ちゃんねるならまだしも、大手新聞社がこのような記事を掲載する可能性はゼロです。産経新聞でもない。あ・り・え・な・い。

でもそう思ったら、考えてほしいのです。同じような「事件」報道を想定したはずなのに、「ありえない」と感じる。では逆に、今回の学歴詐称事件に関する毎日新聞の記事を、さっきさほどの違和感もなく読めてしまったのはなぜなのか。。。

上記のウソ記事のどこが「ありえない」のか確認しておきましょう。まず、正しいサヨクにとっては当たり前のことですが、「X氏」の行動は少しも悪いことではありません。なぜならば、そもそも出身地によって人を差別すること自体が間違っているからです。

たとえば、関東大震災の際の朝鮮人虐殺を考えてみましょう。地震後の混乱の中で、数多くの朝鮮人が一般の日本人によって殺戮(さつりく)されました。そのような状況下で、朝鮮人が「自分は日本人だ」と言い張ったからと言って、非難する人がいるでしょうか? あ、いや、いると思いますが(汗)、正しいサヨクならばそんなことはしないはずですよね。非難されるべきなのは、朝鮮人を殺す日本人です。もちろん、そのような脅威に直面して、「自分は朝鮮人だ」とあえて名乗り出て抵抗する選択もあるでしょう。「勇気」という言葉では言い表しきれないほどの行動です。そのような行動には敬意が払われるべきでしょうが、だからと言って、危険にさらされる中でウソをつく、という戦略を誰も否定することはできません。

同様に、「X氏」の出身地詐称は弱者の戦略として正当なものです。逆に、「落日新聞」の記事は正当なものでしょうか? 断じてNo!です。部落差別がある中で、出身地に関するする情報を暴くことは、たとえそれが「虚偽」を正して「事実」を明らかにするものであっても、決して許されることではありません。たとえて言うなら、朝鮮人虐殺が横行する中で、「こいつは日本人のふりをしているが実は朝鮮人だ」と言うようなものでしょう。

サベツをめぐる私たちサヨクの倫理とは、このようなものです。あるアイデンティティーカテゴリーに属することが差別の対象となるとき、その事実を隠したり偽ったりすることは正当化されます*1。そして「真相」を暴露することこそが糾弾されるべきなのです。

さて、話をもとに戻しましょう。学歴差別は、サベツです。そして、サベツは、悪い。で、あるならば、今回の学歴詐称事件の何が問題であるかが見えてきます。問題なのは、高橋市議(の後援会?)が誤った経歴を申告していたことではありません。むしろ、そのことを「問題」であるかのように暴き立てた毎日新聞(清水隆明記者)の報道こそが問題であるはずです*2。これまで「学歴詐称事件」という言葉を使ってきましたが、これはあまり適切ではないでしょう。むしろ今回の現象は、「学歴詐称「事件」報道事件」とでも呼ぶべきでしょう。ここにあるのは、「学歴詐称問題」ではなく、「学歴詐称「問題」化問題」です。

学歴差別は悪い。学歴詐称は悪くない。学歴詐称を暴くことこそが悪い。これが、「反学校の倫理」です。さあ、早急に「高橋忠明せんせいを勝手に応援する連絡会」を結成して、圧倒的な支持を表明しましょう。もし自民党が高橋せんせいを除名するようなことがあった場合には、反学校党が名誉党員として熱烈に歓迎することを表明しておきます。

さて、もう一歩進めましょう。学歴詐称には、大きく分けて、2つのタイプがあります。「実際よりも高い学歴を自称する」場合と「実際よりも低い学歴を自称する」場合です。今回は、前者のケースでした。そして、それが倫理にかなったものであることを学びました。

では、後者のタイプはどうでしょうか? たとえば、東大卒の人が中卒を自称する場合です。ガテン系のバイト先で周囲に溶け込むために学歴を伏せる、みたいなのはここでは考察の対象外とします。そうではなくて、就職など、学歴が非常に大きなプラス要素であるような場合を想定します。

東大生が、大企業の総合職に応募する際に、履歴書に「中卒、以上」と記入すること。この行為の倫理的意義を、思考実験として検討してみましょう。

リベラル*3な高学歴者は、次のように言います。「自分は、学歴によって人を選別することは良いことだとは思わない。学歴差別には反対だ」。しかしそう言いながら、多くの人は学歴を利用して特権的地位をゲットしています。そのことを非難しようとしても、彼らは言うでしょう。「自分が大卒なのは事実だ。自分は事実をそのまま申告しただけだ。学歴差別を利用したつもりはない」。

彼らは、一流大学卒という「事実」を書いて大企業に就職したり大学教授になったりした。しかし、上記のような思考実験が可能であることが示すのは、「事実」を申告して就職した場合でも、「中卒」と詐称するというオプションが潜在的に存在していた、ということです。ここには、「見えない選択」があったと言えるでしょう。大卒エリートの地位にある人々は、「一流大卒」という「事実」を書くというオプションと、「中卒」という「虚偽」を書くという二つのオプションから、前者をあえて選び取っていたのです。つまり、当人の意識はともかくとして、行為の可能性のレベルにおいては、積極的に学歴差別を利用していることになります。

「反学校の倫理」は、学歴差別について、「ひとごと」として語ることを許しません。学歴差別は、全ての人にとって「自分の問題」です。高学歴・低学歴を問わず、全ての人が当事者であるのです。


なお僕自身は、大学を卒業しています。履歴書にもそう書いています。


*1:もちろん、隠すことができる場合は限定されます。たとえば、身体障害は対面では秘匿(ひとく)することは難しいでしょう。

*2:正確には高橋せんせいが自ら修正していたことを毎日新聞が蒸し返して指摘しているわけですが。

*3:リベラルとサヨクは違います。リベラルはサヨクの最大の敵です。





2010年4月10日追記:
産経新聞でもない」というのは、そうでもないかもしれない。