禁じられた川
ああ、こんなありふれた日常から脱出したい! そこがどんなところであろうとも、ここではないどこかに向けて飛び立ちたい、と朝のまどろみの中で焦燥感に駆られていると、Tちゃんから電話がかかってきました。いわく、「多摩川くだりをしようぜ」。
思えば、数週間前にも同じような誘いに乗って歩き始めたら、なぜか多摩川とは垂直の方向に北上し、上石神井公園まで到達してしまったのでした。
今回は、再び多摩川くだりに挑戦するという、「三度目の正直」を二回目にして実現しようという英雄的冒険となるでしょう。
多摩川沿いを歩き始めてまず見落とすことができなかったのが、「禁止事項」の異様な多さです。
まずはオーソドックスなものから、で〜ん!
色々とあるけど、まあよくある禁止事項ですね。やはりゴミ問題が重要であるようです。このくらいの秩序は民主社会にも必要かもしれません。
掲示三連発。
「カギを閉めます」ってどういうこと? 広大な河原を閉鎖するのは不可能と思われるのですが……。
難解。
この付近での堤防破損、自由使用者の妨げになるようなゴルフ練習等危険な行為はやめましょう。
ここでは、(A)「堤防破損(になるような)」と(B)「自由使用者の妨げになるような」という2つの限定を受けた「ゴルフ練習等危険な行為」が禁止されています。ってことは、(A)でも(B)でもないような「ゴルフ練習等危険な行為」であればOKってこと? その違いを判断する基準はどこにあるんでしょうか。
これも難しい。
「他の人の迷惑となるような場所での使用はやめましょう」っていうのは完全禁止ではなく、部分禁止。そうでないような場所でならOKということになってしまうが、河川周辺全体が「迷惑となるような場所」なのか、そうでないエリアもあるのか、ということは示されていません。
きっと、こういうのを全面的に禁止してしまうのは法律的にちょっとアレだったりして、そのへんをうやむやにしつつも実効性を狙った公務員の知恵の結晶のような掲示文なんでしょうね。
と思ったらシンプルなのもありました。
しかし、地上で走らすラジコンでさえも禁止なんでしょうか? 河原で禁止だったら現代のちびっ子はどこでラジコンをするんでしょうね。
暗くて見にくいですが、「球技禁止」って書いてありますよね。サッカーゴールとかも見えるんですが……、やっぱりダメなのかな。
……。
「ストップざポイすて」(泣)
A:ボール遊びやバーベキューまでとにかく禁止のオンパレードだな。
B:でも、こうやって歩いてると、守ってない人も結構いるね。
A:きっとあれだよ。別に特定の行為自体を禁止したいっていうわけじゃないんだよ。全体的な秩序が維持されてれば警察も違反行為をスルーするわけ。
B:じゃあなんでこんなにどこもかしこも禁止掲示ばかりなわけ?
A:たとえば暴走族とかホームレスとかさ、そういう権力にとって気に食わないやつらを排除する時にさ、ただ「お前らウザイから出てけ!」っていうとアレでしょ。でもこんだけ禁止事項があれば、誰でも一個くらいはひっかるだろうから、それに違反しているっていう理由で追い出すことができるじゃん。
B:なるほどね。些細な禁止事項を無数に作っておいて、それを恣意的に適用することによって、「法の下の平等」を骨抜きにすることができるわけか。なんか例の、オタクっぽい人がカッターナイフを持ってただけで警察にしょっ引かれる*1っていうのに通じる話かもね。でもさあ、それなら、ボール遊び禁止みたいなことよりも、いっそのこと「呼吸禁止」とか「歩行禁止」とか「生きること自体禁止」っていう規則を作っちゃえばいいんじゃないの?
A:おいおい、↓見ろよ。
サバイバル禁止!
A:やっぱ、生き延びること自体もう禁止なんだってば。
B:わー! こりゃスゴイね。ま、もちろん「サバイバルゲーム禁止」っていうのを意図してるんだろうけど。隣りに「不法居住禁止」ってあるし……。この2つを並べるセンスはやっぱりスゴイ!
A:経堂と梅が丘の間の遊歩道に、こんなの↓もあったよ。
B:あはは、何が禁止されてるのかわからない。ま、もちろん、インクがはげちゃっただけなんだろうし、内容は文脈から想像できるけど。
A:ちょっと散歩しただけでこんなに禁止事項に出会えるなんて、我々の全体主義も捨てたものじゃないのかもしれないな。
B:でもね、本当にスゴイ全体主義社会では、自由が抑圧されているという事実それ自体が抑圧されるんだって。ジジェクが言ってた。
A:またジジェクかよ。どういうこと?
B:たとえばさ、ソ連の議会かなんかで、「スターリンは最悪だ。あんなのやめさせろ!」って誰かが叫ぶとするじゃん。で、それに対して、横に座ってた奴がさ、「気でも狂ったのか? 同志スターリンを批判することが許されるわけないだろ!」って糾弾したとしたら、その注意したやつの方が先に撃ち殺されるんだって。つまり、あくまでも、批判精神や、自由闊達な言論が許されている中でスターリンが支持されてるっていう外観を保つことが重要だったんだ。
A:ふ〜ん。じゃあこんなに禁止事項が溢れてたり、市民的自由を制限するような改革が進行する日本社会っていうのは、実はようやく民主化の歩みを開始しつつあるのかもね。*2
最後にオマケ
↑石神井公園にて。
↓多摩センターにて。
サンリオピューロランドって、18未満立入禁止だったの?